いまや国際的に人文学再編の大きな流れを作り出しているという仏教学。『初期仏教 ブッダの思想をたどる』は、仏教学研究の最新成果を知的興奮とともに知ることができる一冊です。著者の馬場紀寿さん(東京大学東洋文化研究所准教授)にお話をうかがってきました。 * * * ──馬場先生に初めて新書執筆についてご相談したのが、2016年11月のことでした。ちょうど先生の方でも、もし自分が新書を書くとしたら…と構想を練っておられたとか。「セレンディピティ(偶然の出会い)ですね」と申し上げたのを、昨日のことのように記憶しています。 馬場 そのとき、「セレンディピティ」というのは私が研究対象にしているスリランカに由来する言葉なんですよ、と言いましたよね。 ──先生は仏教のなかでも、そのスリランカや東南アジアで広まっている「上座部(じょうざぶ)仏教」、をメインに研究されていますが(『上座部仏教の思想形成』春秋社など)、初期仏教(原始仏教)についての新書を書いてみようと思ったきっかけは? 馬場 このテーマに最初に関心を抱いたのは、1997年、のちに私の指導教授となる下田正弘先生の初期仏教にかんする講義に出席した